お侍様 小劇場

   “ちょっと昔のお話を…” (お侍 番外編 49)

              *R−15くらいでしょうか。BL系のそういう場面のみのSSです。
                淫靡な描写がお嫌いな方は自己判断でお避け下さいませ。

 


そこはすっかりと外界とは切り離されたかのような空間で。
完全なる無音というほど無機質じゃあない、
どこからか、梢で遊ぶ鳥の声なぞが遠くに聞こえなくもない、
肌合いのいい静寂に満ちた屋敷の一角だ。
仰々しい屋敷町にあるでなく、
それでいて土地の名士の館としての人の出入りがあるでもなく。
普段は滅多に人の気配もないままなのでと、
誰の住まいだ、空き家じゃないのか、
いやいや庭や窓などきれいにしておいでだからそれはあるまいと、
忘れたころに取り沙汰されるような、そんな不思議なお屋敷であり。

  その推量、半分ほどは当たっていて。

とある旧家の別邸なれど、
観光地や静養に向いた閑静な土地にあるでなし。
近所付き合いもないままに、
もっぱらの代々、隠れ家として、
言わば“別邸”としての使いようしかされてはいない。


  そして……





  「……あ、…や…。//////」


重々しい家具か何かが“ぎしり”と軋んだような音がして。
それへとかぶさったのが、かぼそい人声。
古風な木枠仕立ての大窓には、一応のカーテンが引かれてはいるが、
まだまだ日の高い時刻ゆえ、その程度の遮光では明かりも要らぬ室内には。
そんな頃合いには ややそぐわぬ、
禁忌とは真っ向から相反する、妖しい蠱惑の香が満ちており。
丈の高くて三つ折りの、籐の衝立を巡らせた、
古めかしい割に ずんと大きな型の寝台据えた閨にては、
二つの影が絡み合いつつ うごめいている。
敷布の白にその輪郭を溶け込ませてしまいそうなほど、
危ういくらいに淡い色の肌を、
精悍さをそのまま表す、褐色に間近い肌が組み伏せていて。
その極端な拮抗もまた、
強引で無残な凌辱の痛さに寄り添う、淫靡な色香を偲ばせたものの、

 「ん…、ぁ…やぁ…。////////」

ゆるく揺すぶられたその拍子、
敷布へと埋まるよに縫いつけられていた側の青年が、
甘く切ない声を上げつつ、
自分を組み敷く当の相手へと、白い手を伸べ、二の腕へ。
助け求めてか、甘えるようにか、するりと なめらかにすがりつく。
うっすらと汗を滲ませた額には、淡色の髪を幾条か張りつけていて。
こうも薄暗い中でさえ、見事な色合いの金は褪せず。
それが気に入りか、のしかかった男がその身をますますと倒すと、
ほどかれての敷布の上へと散り撒かれた髪へ唇を寄せる。
だが、そうまで身を寄せてしまうことが、
組み敷かれていた青年に、重みとは別の刺激を与えてしまうらしく。

 「あっ、や…。////」

どちらにも思わぬ流れとなったそれへ、
青年は男の、筋骨 隆と盛り上がった肩へと なおすがり。
男の方は、そんな青年をなだめるように、
額の端やら頬、そして口許へ、そおと優しく口づける。
そして、そこからなだれ込むように、

 「あ、あっ、あ…。////////」

ゆるやかな律動に揺すられていた青年が、
切れ切れに声を上げ始めて。
まだこういった色事へ、全くの全然慣れていない身であるらしく、

  「ぁあ…………っっ。」

達してもなお震えが止まらず、
自分を苛んだ相手の逞しい肩へとすがったまんま。
強い高まりが去るのをじっと堪える、
赤みの増したお顔の様子の、何とも健気なことだろか。
どこか幼い印象さえある、若々しくて伸びやかな肢体は、
西欧の血統を引いてでもいるものか、肌の色も体毛も殊更に薄く。
まだまだ慣れぬ行為へ、
含羞みと戸惑いにぎこちなくも堅くなっていたものの。
熱に冒され、悦に犯され、
衣紋と共に少しずつ、
恥じらいまでも剥がさんとされて。
それでもと残した僅かばかりの自制から、
淫らにあえぐまい、乱れまいと耐える姿の痛々しさが、
却って相手への嗜虐を煽っていると、今のところは気づかずにいる。

 「……あっ…や…。////////」

再び堅さを取り戻したらしい、
男がねじ込んだままにした熱塊の変化に慄いて。
こちらの体の奥まったところで、
力強くもその存在を主張し始めるのへと、狼狽
(うろた)えての身じろげば。
苦しいのだか辛いのだか、まだよく判らない感覚が、
捕まえられぬ刹那のそれとして総身を貫き。
そして そのたびごとに、
下腹の底から手足の指の先へまで、熱いしびれが駆け抜けて。

 「や…ぁ…、は……。///////」

まだ少年と呼んでもいいほどに柔らかな肢体は、
こちらはすっかりと大人の男の腕の中、
しなやかに反り返っては、助けを求めるように腕を伸ばし。
堪え切れずに唇を衝いて出る声は、
ぎりぎり耐えようとする反動か、悲鳴に近い高さの掠れよう。
白いかかとが敷布を蹴って、
何とか逃れたくてか、広い寝台の上、体をずり上げかかるのだが。
雄々しき征服者はそれを許すはずもなく。
大ぶりの手があっさりと二の腕や肩を捕まえ、
悲鳴を零す、やわらかな口許の可憐な形、
容赦なく押し潰すよに口づけて散らす乱暴さよ。

 「…んぅ……。//////」

息さえ奪わんという荒々しい口吸いへ、
それでも必死に応じるは、決してこの男を嫌がってはないからで。
慣れぬ悦にてさんざんに翻弄され、
熱にとろけて浮いたようになった眼差しは。
顔を離しての窺うように、真上から見下ろす御主の顔をとろんと見上げて。
まだどこかしら荒々しくも、野性味滲んだ双眸を見返すと。
体の中で疼いてやまぬ、正体不明の淫らな拍動にひくりひくりと震えつつ、
その口許を嫣然とほころばせ、


   かんべえさま、と


切なそうに目許たわませ、甘えるように囁いたりするものだから。

 「………。」

ああ、これだから初心な相手は怖い。
いつだってホントは手加減してやりたいのに、
少しずつ少しずつ、慣れていってほしいのに。
今のところ、それが叶った試しがない。
吐息の熱に濡れ、赤みが増した口許を、
咬みつき、剥ぎ取りたいかのような口づけで再びむさぼり。

 「んぅ…や…ぁっ…。/////」

止める間もなくの ほとびる声へ、
誘われるまま 激しい蹂躙をば続け。
触れる端からするすると崩れてしまいそうなほど、
柔らかな首条に、真白な脾腹、すべらかな内肢。
皮膚の堅い指先が、時折歯を立てもする口唇が、
容赦ないまま押し撫ぜれば。
たちまち震えていやいやと、蜜声あげる素直さよ。
あまりに強すぎる刺激に呑まれて、
潤みの増した双眸から、無意識の雫がこぼれ、
こめかみ濡らしてすべり落ちるまで。
この身は いかにしても止まりはしないのが常のこと。
大切なはずの愛しい人、
だのにその愛しさが時には暴走もし、
堅く手ごわい自制の箍をいともたやすく弾けさせるほど、
男を狂わせることもあるのだと。
他でもない我が身の上で思い知る 悪循環。





◇◇◇



まだまだ若いというに宗家の当主となった勘兵衛は、
そうなる前から 駿河の実家から東京へと住まいを移しており。
いくら両親が亡くなって家督を継がねばならぬ立場になったといっても、
その詳細を明かせぬ身な以上、表向きの職を唐突に退職するわけにもいかず。
となれば、いきなり越しても不自然だろうということで、
そのまま東京住まいを続けておいで。
月に何度か戻って来、
唯一の家人である七郎次と過ごすのをそれは楽しみにしていたものが、

 『…勘兵衛様?』

今日に限っては珍しくも、
七郎次が通っている公立の高校の門前へまで、
彼本人が車で乗りつけて迎えに来たその上に。
家へは帰らず、この別邸へと直行し、
取るものもとりあえずという勢いで、
コトへと至った勘兵衛だったので。
年下の情人を有無をも言わさず閨房へと引きずり込んでという強引さは、
一番最初の力まかせだった抱擁以来。
ついつい激情にまかせての乱暴をはたらいたこと、
すぐにも悔いたその反動か、
それ以降はいつだって、無理強いはせぬとの了解を求め、
優しく手厚く睦んで下さる御主のはずが。
途中から我を忘れるならともかくも、
そのお誘いの段からして こうまでも性急に、
しかも明るいうちからというのは初めてで。
いつもは泰然となさっておいでのその人が、
どうかするともどかしそうに、
たいそう急くよに求めておいで。
それでなくとも、
依然として…どう対せばいいのか、
どう振る舞えばいいのかも判らぬ身ゆえ。
まだまだ翻弄されているばかり。

  とはいえ

愛しい愛しいと撫でて下さると、
何とも掴み難い熱が汲み出されるよになったように。
身の裡 つらぬく感覚が、前は苦しいばかりであったのに、
どうしてだろうか、少しほど前からは。
血肉をじんと痺れさせ、甘い陶酔 招くものへと変わりつつある。

 “もしかして私は…。///////”

途轍もなく淫靡な性をしているのだろか。
体を開かれるのが、抱かれるのが嬉しい、
そんな いやらしい身だったのだろか…と。
初心な者が最初におちいる誤解に捕まり、
そんな思い過ごしから ますますのこと乱れまいとする。
そんな意地を張れば張るほど、相手を煽るとまだ気づかぬのも青々しいばかり。
事後の余熱に頬染めている、いとしくも愛らしい情人殿が、
浅い眠りから目覚めたの、しばらくほど声もかけずに眺めていたが、

 「…勘兵衛様?」

ついつい我慢が利かなくて。
気に入りの髪をそおと梳いてやると、その感触にはさすがに気がついたらしく。
その身を懐ろへと掻い込むこちら、ほのかに潤みの残る眸で見上げて来、

  どうされたのですか?

抱かれること自体にはもはや異存も抵抗もないが、
性急すぎたのがらしくないと、
それでなくとも利他的なところの強い子だけに、
様子が訝しいと、さすがに案じてくれているのだろ。
眠っている間に上掛けでくるりと、
きれいな肢体をくるみ込んでやった青年は、
ますますのこと どこか幼い様子になっており。
それが真っ直ぐに見上げてくるのへ、さすがに言を左右にするのも憚られ、

 「なに、務めへの通達が出たのでな。」
 「…っ。」

宗家の当主、総帥という地位に就いたとはいえ、
一族がこなす務めへの処断という最も重い任へは、まだまだ経験の足りぬ不慣れな身。
当分は父君を補佐していた木曽の総代が、
対処依頼がどの程度の級かの処断とそれへの対処を計る任を続けてくれるそうなので。
依頼への処断へ、責任もって ものに出来るよになるまでは、
現場での手腕を振るう側の首級格としての務めが続く。

 「勘兵衛様が向かわれるほどの?」
 「らしい。私としても、まだそちらの方が性に合って……?」

言葉が途中で寸断されたのは、七郎次が唐突にすがりついて来たからで。

 「…シチ。」
 「〜〜〜。」

顔も上げずに、いやいやいやと。
頑是ない子供のように、ただただ何度もかぶりを振って見せ。
こちらも剥き出しのままだった、
勘兵衛の胸元へ頬を押し当て、すんと小さく溜息をつく。
周囲どころか本人が嫌がっても抗えないことと、彼とて重々判っているのだろうに。
それでも…この勘兵衛へと割り振られる案件ともなれば、
どれほどのこと危険で難しいそれかも同じくらいに判っているから。
そんなところへ遣りたくはないと、
咄嗟に思っての“いや”だったらしくって。


  シチ。
  ………………。
  怒るな。しようがないことだ。
  ………。
  今夜にも迎えが来るのでな。


それで…矢も楯もたまらず、こんな乱暴をはたらいたのだと。
照れ隠しにか勘兵衛は笑うが、七郎次には笑えない。
だって、これじゃあまるで末期の逢瀬じゃないか。


  シチ。
  ………………。
  拗ねているのか? しようのない奴だの。
  ………。


低く微笑うお声の甘さも、
精悍な匂いもやさしい温みも。
髪を梳いてる手の重さ、
屈強な筋骨縁取る陰影も男臭い、
男でも見ほれるほどの、頼もしい肢体のシルエットなどなど。
いっときたりとも忘れたくはないからと、
五感や肌に刻み込むので忙しく。
それで返事が出来ない七郎次の気持ちも知らず。
いやさ、彼は彼でとそんな情人の横顔や肌の熱、
やっぱり覚えておきたくての、
でもでもそんな本心は誤魔化すように。
やくたいもないこと、話しかけてのこちらを向かせたいだけなのかも。


  シチ?
  ……知りません。


撥ね退けるような言いようをしつつも、
その手が頬がすりすりと、御主様の腕や胸元に触れている。
どうかご無事でと祈るよに、
覚えてなくたって…忘れたっていいよ、
だって本人が戻って来たんだものと、笑い話に出来るよに…。




  〜Fine〜 09.04.26.


  *なんか尻切れトンボな終わり方ですいません。
   仔猫のお話を書いてたはずが、
   急に変なスイッチが入ったらしく、
   寵猫抄じゃあなくの、イツフタの若いころの艶話になっちゃいました。
   昨日からこっち、唐突に寒かったからでしょうかねぇ?
   慌てふためいてたのが、こんだけ落ち着いたんだよということか。
(う〜ん)

  *この頃合いの勘兵衛様は、三十前だと思われますので、
   さすがに“儂”もなかろうと、
   初めてじゃなかろうかの“私”という一人称を使わせていただきました。
   若いとはいえ恋人にデレデレの惣領様です。
   木曽の総代様も大変だったでしょうよねぇ。
(う〜んう〜ん)
   だから、少し後の久蔵さんへ、
   敵愾心を持たせるような悪戯を振ったのかしらねぇ?
(苦笑)

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv

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